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Da Capo

"芸術は人間に存在理由を明示する"
オーギュスト・ロダン

強烈な存在感と多彩な表現力で、欧州を中心に活躍を続けるダンサー・川口ゆいと、ジャズ・即興音楽シーンで、長きに渡り国際的人気を誇り、今年のJAZZ PREIS BERLIN も受賞したピアニスト・高瀬アキが取り組んできたデュオシリーズ、「ピアノの中の都市」が始まって、今年で10年目を迎えます。クラシックからアバンギャルドまで、あらゆる境界を軽々と飛び越えていく二人の達人の掛け合いは、これまで様々な幻想的な都市を舞台上に描き出し、各国の観客を魅了してきました。

 記念すべき10年目の今年に二人が選んだテーマは、異なる文化と芸術形式の出会い。今回はフランスを代表するクラリネット奏者ルイ・スクラヴィスと、音楽プロデューサーとしても活躍するドイツのDJ ・イルバイブ、ヒップホップをベースに、クランプ、アフリカンダンスを変幻自在に操るガーナ人ダンサー、コフィ・ダ・バイブの3人のアーティストをチームに迎えたクインテットに挑戦。ジャズや現代音楽、民族音楽、ヒップホップやエレクトロミュージックが有機的に混ざり合う音世界と2つの全く違うバックグラウンドを持つダンサーの身体とが絡みあって、様々な対話を生み出して行きます。

 作品の着想のきっかけとなったのは、 20世紀初頭に欧州で活躍し、波乱万丈の半生を過ごした日本人女優・花子こと太田ひさ(1868-1945)と、フランスの巨匠・ロダンの出会いと友情のエピソードをテーマにした、2016年のベルリンのジョージ・コルベ美術館での展覧会「オーギュスト・ロダンとマダム花子」です。20世紀初頭、マルセイユの博覧会でたまたま目にした日本芝居小屋での、花子の演技に圧倒された彫刻家・ロダンは、彼女に自分のモデルになるよう申し込み、その後、花子はロダン夫妻と私生活でも温かい友情を育みます。ロダンが残した58体もの花子のマスクや彫像、スケッチは今日も見る者の心を捉えて離しません。ロダンは花子の中に何を見つけたのでしょうか。そして、日本に戻った花子の頭に、当時の西洋社会はどのように焼き付いていたのでしょうか。  

それらの思いを「Da Capo=頭(はじめ)から」というタイトルに込め、強烈な個性と異なるバックグラウンドをもつ5人のアーティストが集い、即興をふんだんに交えてぶつかり合い、奏で合う。それぞれに受け継がれてきた文化や歴史、性や人種に、個々の感性が織り交ざって湧き上がるグルーヴは、観客を万華鏡のような時空の旅へと引き込んで行くことでしょう。

▼ 初演データ

初演: 2018年4月28日 - 18時開演
国際ダンスフェスティバル Bregenzer Frühling 2018 内

クンストハウス ブレゲンツ

Karl-Tizian-Platz
Postfach 45 / 6900 ブレゲンツ、 オーストリア

上演時間 :約1時間


▼ メンバー
出演:高瀬アキ(ピアノ)、ルイ・スクラヴィス(クラリネット/バスクラリネット)
DJ イルバイブ(DJ/サウンドスケープ)、コフィ・ダ・バイブ(ダンス)、川口ゆい(ダンス)


コンセプト・芸術監督:川口ゆい
コンセプト・音楽監督:高瀬アキ

照明:ファビアン・ブライシュ
制作:イリヤ・フォンテーン(Mendora)
音楽マネージメント:コンスタンツェ・シュリブス



▼ アーティスト略歴


川口ゆい – 芸術監督、ダンス
2005年よりベルリンで活動を始め、フリーランスとしてジャンルを超えて幅広く活動中。Ismael Ivo、Tomi Paasonen、Helena Waldmann、Nico and the Navigators、Flying Steps等の作品に参加する一方で、自身の作品を多数発表。2006年横浜ソロ×デュオ<competition+>審査員賞受賞。2010年ソロ “アンドロポラロイド”が、ケルンタンツテアタープライズを受賞。ドイツを代表するブレイクダンスチームFlying Stepsと演出家クリストフ・ハーゲルによる 「レッドブル・フライングバッハ」に、唯一の女性ダンサーとして参加、コンテンポラリーパートの振付を担当。作品はEcho Klassic特別賞を受賞し、日本(オーチャードホール、他)を含む世界35カ国以上を現在もツアー中、すでに50万人以上を動員。
 2014年に映像作家・石橋義正との共同制作で発表した「マッチャトリア」は7カ国16都市で100回以上上演される。2017年NHK名曲アルバムプラスにて、チャイコフスキーによる「白鳥の湖」のコンテンポラリーダンス版を、振付・ソロ出演。2008年より、ジャズピアニスト高瀬アキとのデュオシリーズ「ピアノの中の都市」を展開、10年目の今年は国際ダンスフェスティバル「ブレゲンツの春」の委託で、Peter Zumthorの建築で知られるクンストハウス・ブレゲンツにて、新作「ダ・カーポ」を企画・上演。

高瀬アキ – 音楽監督、ピアノ www.akitakase.com
ヨーロッパを中心にジャズ、即興音楽シーンで活躍。国際的に高く評価され、欧州他、世界各地で演奏活動している。1988年よりベルリン在住。 同年音楽監督Alexander von Schlippenbachと共にベルリン・コンテンポラリージャズオーケストラを率いて演奏活動を開始。
1997年秋から2000年冬までベルリンのハンス・アイスラー大学に客員教授として招かれ教鞭を執る。グループ 「Aki and the Good Boys」「Plays Fats Waller」「LA PLANETE」「TAMA」「LOK.03」や、「SO LONG ERIC PROJECT」等で公演。デュオのパートナーとして、Han Bennink, Louis Sclavis, Rudi Mahall, David Murray, Daniel Erdmann, Silke Eberhard, Alex v. Schlippenbach, Ingrid Laubrockなど。2018年より新しいグループ „JAPANIC“ にて活動開始。メンバーはDaniel Erdmann, DJIIIVibe, Dag Magnus Narvesenと共演。1999年より、作家多和田葉子との”言葉と響き“デュオ・パフォーマンスを欧米、日本で数多く公演している。2007年より舞踊家、振付家の岡登志子とのデュオ、 又岡率いるアンサンブル・ゾネとの公演なども手がけ、2008年からベルリン在住の舞踊家、川口ゆいと定期的に公演、2018年に新作「ダ・カーポ」 をオーストリアのブレゲンツにて初演。
<受賞暦>
ベルリン新聞文化批評家賞(1999年)|SWRラジオ局2002年度最優秀音楽家賞| 2004年度ドイツ批評家賞ジャズ部門年間ベスト・レコード賞|David MurrayとのDUO CD „Cherry-Sakura“ 2017年度2期ドイツ批評家レコード賞|ドイツ批評家レコード賞 9回 (1988, 1990, 1993, 1997, 2001, 2004, 2007, 2009, 2017)|2018年度 ベルリン ジャズ賞

ルイ・スクラヴィス - クラリネット/バスクラリネット
リヨン音楽院で学んだのち、1975-1988年音楽集団ARFIに参加、現地の著名なグループと多数共演する。1982年彼にとって最初となるバンド“Le Tour de France“を結成、1984年初のソロアルバム“Clarinets“をリリースする。1987年Septetを結成し、多数のフェスティバルに出演。Chris McGregor, Peter Brötzmann, Evan Parker, Conny Bauer, Heinz Becker, John Lindberg, Michel Braam, Tony Oxley, Jean-Pierre Drouet, Andreas Willers や Gabriele Haslerらとのコラボレーションで数多くのCDが制作される。アルバム“Silk and Salt Melodies“で2014年ドイツ批評家レコード賞最優秀賞受賞。ルイ・スクラヴィスは1980年代以来、フランスのジャズシーンにおいて常に注目を置かれる存在である。彼は芸術や民族音楽を、軽妙で馴染みやすい音楽に彫琢し、そのリズミカルかつ巧妙な構成は、エネルギッシュでありながらも、深い哀愁を聴き手に感じさせる。1988年その年の最も優秀なフランスのジャズ音楽家に贈られる、Diango Reinhardt賞を受賞。1990年ブリティッシュ・ジャズ・アワード、1996年フランス文化庁ナショナル音楽賞受賞。

DJ イルバイブ – ライブDJ / サウンドスケープ
ヴィンセント・フォン・シュリッペンバッハことDJイルバイブは、ドイツで人気のダンスホール・バンドのSeeed(2005年まで)とベルリンのヒップホップ・グループMoabeatの共同設立者兼DJとして活躍中。 子供の頃からドラムを演奏し、その後、ターンテーブルにフォーカスを定めた彼は、15歳ですでにヒップホップ・クラブでキャリアをスタートする。 DJのセットを楽器のように演奏する独特の技法で、イルバイブの名はヒップホップとジャズの両方のシーンで、すぐに知られるようになる。 現在は、彼の父親であり、ドイツのジャズピアニストの重鎮Alexander von Schlippenbachと高瀬アキとのトリオLOK03のようなプロジェクトに参加する一方、ドイツメジャーシーンのアーティストPeter Fox、Martiria、Beatsteaks、Miss Platnum、Seeed、Cassandra Steen、Yasha、Marsimotoなどのプロデューサーとして活動。メンバーであるプロデューサーチームの「The Krauts」は、日本のアカデミー賞にあたるEcho 2009を受賞。

コフィ・ダ・バイブ - ダンス
ガーナ系ドイツ人のコフィ・ダ・バイブことKIDMADDRIPPは、ヒップホップ&クランプダンサーとして、10代で踊り始め、数多くの伝説的ダンサーに触発される。彼はヨーロッパのクランプダンスシーンの創始者の一人として、活動を国際的に広げ、所属するグループ„Badnew mp und Buckmanz“はそのシーンでは世界的に有名である。コフィ・ダ・バイブは、ドイツのアーバンダンスシーンの代表となった最初のドイツ人ダンサーの一人で、さらに大御所TIGHT EYEZの生徒としても 、ダンスコミュニティーで世界的に認められた。彼は毎年デュッセルドルフで開催される、最大規模のクランプ・バトル、 "European Buck Session"の創設者で、その才能と情熱は現在もアーバンダンスシーンを 刺激し続けている。



▼ 批評

舞踊で表現する芸術家たちの関係

ノイエ フォアアルベルガー ツァイトゥング
2018年4月29日 カタリーナ・フォン・グラゼナップ

「ブレゲンツの春」内で開催された、「ダ・カーポ」は、5人のジャンルの違う、非常に個性の際立ったアーティストたちによる魅力的なコラボレーションであった。<中略>ジャズ、現代音楽、ピアノとクラリネット/バスクラリネット、加えてDJによるリズミカルなスクラッチ、そしてもちろんダンスによる即興は、類まれな結びつきを生み出していく。 <中略>共演シーンでは、互いを生かし合いつつも、あらゆる対比や洒落、蛇や人形を思わせるような動きが、様々な意味あいを映し出す鏡となる。 <中略>踊りで紡がれるこのストーリーは桁外れの音楽によって支えられる。弾ける音、リズミカルなグルーヴやピアニストによるトーンクラスター、そしてワイルドに飛び出してくるクラリネットは、咳払いや雄叫びのような音を出したり、タンポをパチパチならせてあそんだり、静かなパッセージでは空間を優雅に広げたり、、、ワクワクする魅力に溢れている。


内容もスキルも盛りだくさん、それでも素晴らしい

フォアアルベルガー ナハリヒテン
川口ゆいとコフィ・ダ・バイブによって「ブレゲンツの春」も裾野を広げる 2018年4月28日


、、、「ダ・カーポ」がフランス人彫刻家オーギュスト・ロダンと日本人女優マダム・花子のストーリーからかけ離れていても、作品の正当性を主張するのには、なんら苦にならない。高瀬アキ(ピアノ)、ルイ・スクラヴィス(クラリネット)そしてDJイルバイブによる生演奏、コンセプトに基づく様々な国やスタイルの旅はどのみち絵画的要素を含んでいる<中略>川口ゆいとコフィ・ダ・バイブは、のびのびと、全ての通を唸らせるようなクオリティを吹き込んでいく。

▼ 写真ギャラリー


(c)Christiane Setz

主催:Mendora/川口ゆい
共同制作:Bregenzer Frühling、 Kunsthau Bregenz
助成:ドイツ−フランスコンテンポラリー音楽基金/ Impuls neue Musik
協力:Tanzhaus NRW、Fabrikpotsdam、Weltkunstzimmer